無知の知ノート

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野宿の人

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寒い季節になると 思い出す人がいる 

といっても  その人の名前は知らない 

 

北海道稚内の駅前で 野宿していたその人は  

まだ日暮れでもないのに 布に包まって寝ていた 

 

 

 

大阪の自宅から自転車で旅立って 3か月になる夏の日 

その日は浜頓別からオホーツク海を右手に

風雨の中ペダルを漕ぎ続けた

 

宗谷岬あたりから 雨は上がったものの 

稚内に着いた時には もう先へ進む気力は 無くなっていた 
 

 

 

駅前で 濡れた自転車を拭きながら 

ただぼんやりと 今夜の宿をどうするかと考えていた 

 

宿は主にユースホステルを利用していたが 
ユースまで辿り着けない時や 

近辺に旅館やホテルも無いといった時には  

 

お寺の本堂だったり 派出所の廊下だったり  

頼み込んで 寝かせてもらったこともあった  

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稚内駅の軒先に寝ている人を見て ヒラメイタ 

 

・・・そうだ 今夜は野宿しよう!

シュラフも自転車に積んであるし  

 


「あのう・・・ここで寝てもいいですか?」

 

目を合わせたその人は 顔中ヒゲだらけで 年齢もわからない  

訝しげに私を見て 返事もせずに くるりと背を向けてしまった 

 

嫌われた様子だったが 

ひとりで野宿するのは なんとなく心細いし 
ダメと言われたわけではないのだから 

私は勝手に隣で寝ることを決めて シュラフを広げた 

 

 

「ダンボール拾って来い」

 

その男性は背を向けたままで ボソッと呟いた 

 

「えっ ダンボールですか?」

 

私に言ったに違いないが 理解ができない 

 

「この先に商店街があるから 
そこへ行けば ダンボール積んだ場所があるから 
大きいのを拾って来い」 

 

「はい・・・」

 

訳が解らないまま 言われた方向に商店街を見つけたのだが  

積まれた場所?が分らない 

 

けれども 手ぶらで帰ると叱られそうな気がして  

私は勇気を出して 一軒の店に入った 

 

「あのう ダンボールが欲しいのですけど いらないのありますか?」 

 

「あるよ」

 

理由を聞かずに 手渡してくれたダンボールを 

有り難く抱えて駅前に戻ると  

ヒゲの男性が起き上がって 私の帰りを待っていた 

 

「それを伸ばして その上に寝ないと 
コンクリートに 直に寝ちゃ冷え込むから」 

 

・・・なるほど そういうことだったのか  

 

夏とはいっても北海道の夜は やはり寒いらしい 

 

教えられた通りにダンボールを平らにして 

その上にシュラフを広げた  

 

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「ここで寝るの?!」

 

突然声を掛けて来たのは  

旅行中で 稚内駅に降り立ったばかりだという 

ふたりの大学生だった 

 

夏休みを利用して 

大阪から電車を乗り継いで やって来たという 

 

私の自転車旅行に感動したと言って  

一緒に野宿すると言い出した 

 

シュラフも無いのに 止めたほうがいいと反対したし 

ダンボールを拾ってきたほうがいい とも言ったのだが 

 

「大丈夫だから」と聞く耳もたない風に

 

上着を羽織るだけで 彼らは私の隣に横になった 

 


右側にヒゲの男性 左側に大学生ふたり 

 

「何かあったら 大声出せばいい」

 

右側から ぽつりと声が聞こえた 

 

その言葉が 妙な不安をかきたてたが  

数十キロ風雨の中 ペダルを踏んできた体は疲労していて 

 

いつの間にか 意識は大地に溶け込んでいくかのように 

深い眠りへと落ちていった 

 

 


 

コツコツコツ カツカツカツ

 

朝 深い眠りを覚ましたのは 

駅へ急ぐ人たちの靴音だった 

 

眠い目を開けると  

頭の上すれすれの所を 

たくさんの革靴やハイヒールが 通り過ぎていく 

 

こんな最北端の駅でも 

通勤時には都会と同じだなぁ と 

 

感心しながら見上げていると 

明らかに別世界を覗く様な 何人かの視線と目が合った 

 

 

子供の頃

 

「見てはいけません 指を指してはいけません」と言われて 

 

訳の解らない恐怖感を抱いたまま  

避けて通ったりしていた 路上生活者への偏見 

 

体験しなければ理解できないこともある 

 

 

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首を左に傾けると 

眠そうな顔をした大学生と目が合った 

 

「おはよう 眠れた?」

 

「寒くて震えて 眠れなかったよ」

 

・・・だから言ったのに
ダンボールがあれば 暖かかったのに  

 

 


ダンボールとシュラフを片付けて 

私はヒゲの男性に礼を言った 

 

背を向けたまま返事も無かったが 

旅で出会った心優しい人だった 

 

 

夏休みを利用して 電車で旅した大学生たちは 

いまは 背広姿のサラリーマンだろうか 

 

野宿の人はどうだろう  

寒い季節には

日本列島を南下したりするのだろうか 

 

今でも 街中で野宿の人を見かけると 

妙な親近感を覚える 

 

 

みんな それぞれの人生を旅している 

いろんな旅の形があっていいのだろう 

 

優しい気持ちを持ち続けていられたら 

それは すばらしい人生だと思う 

 

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