ダンスが僕らの夢だった(2/5)「ずっと続くと思っていた」
(2)「ずっと続くと思っていた」
(1)からのつづき
大手スポーツクラブでの同僚だったケントは 端正なルックスも手伝って
レッスンでは女性メンバーが取り巻く 人気のダンスインストラクターだった
同じ職場といっても
担当の曜日も時間帯も違えば 顔を合わせる機会は無く
初めの1年近くは
ロビーに張り出されたインストラクター紹介パネルで 互いを知るだけで
来日ダンサーのワークショップで 偶然顔を合わせた時にも
軽く会釈するだけだった
職場で人気を競い合っているという点で
互いにライバル心が無くもなかったけど
同じストリートダンスとはいっても
振り付けや教え方は個々のものだから
とにかく自分を磨くことで精一杯で
出会ったワークショップでも 視野に彼は無く
手足の長い黒人ダンサーの大きな動きに
ついて踊るだけで必死だった
どんな職業もそうであるように ダンスの世界も奥が深い
人に教える立場だからこそ
レッスンを受けに出掛けることも重要と考えるダンサーは多く
各所のスタジオで顔を合わせることは しばしばあった
HIPHOP・ HOUSE ・JAZZ ・AFRICAN・ LOCK ・SOUL・・・
いろんなワークショップの場で互いを見かけるうちに
会話するようになった
職場のクラブでは集客第一で
人気のないイントラは 即クビという厳しさの中
振り付けや選曲を工夫して
レベルが様々なメンバーに対応しなければならない大変さとか
そんな話も 素直に分かり合えた
何より ダンサーとして技量を高めたい情熱は同じで
通うスタジオでは 知り合っていく仲間たちも増えていった
顔を合わせる常連たちの事情はさまざまだったけど
大好きなダンスで食べていきたい夢は共通していた
性格男前なサヨリは
踊れるスペースと時間が取れるという理由で
倉庫管理のバイトをしている
心優しいジンは
介護の仕事に従事しながらダンサー修行に励んでいる
笑い上戸のユッチは
昼はOL 夜はスタジオ通いの毎日
芯の強いアッコは
和歌山から大阪までレッスンを受けに通っている
ムードメーカーのショウマは
大学ではダンスサークルにも入っている
女子力高いモッチや
CD編集が得意なハヤトは
フリーのインストラクターとして 数箇所のクラブでレッスンを持っている
クタクタに踊りきったあとは 階段に座り込んで30分ほど
まったりとした時間を みんなで過ごしてから帰宅するのが
決まりみたいになっていた
確実な将来なんて見えないまま 体力的にも苦しい中
ただただダンスが好きで 集まっていた
シンドくても楽しい
こんな日々がずっと続くかのように
毎日 ひたすら踊っていた
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ケントが「長野に帰る」と伝言を残して姿を消したのは
余りにも突然のことだった
ポッカリと穴が開いたような 喪失感で
それでもみんな 前へ進むしかなくて
彼の話題を口にすることは 敢えて避けていた気がする
実家から帰って来い とでも言われたのか?
それで 仲間もキャリアも捨てることができたのか?
何もわからないまま まさか病気だなんて
誰も想像さえしなかった
つづく
ご訪問ありがとうございました
感謝☆