ダンスが僕らの夢だった(3/5)「1年間の変化」
(3) 「1年間の変化」
(1)(2)からのつづき
目的の病院はインターを降りてすぐの所にあって
午前に家を出てから5時間程のドライブだった
訪ねた病室は4階にある6人部屋で 中央通路を挟んで3床づつ
入口近くの2床は空いていた
部屋の一番奥
大きく開口した窓際のベットにケントがいた
「おぅ!」
横たわってはいるが 右手を振り上げ元気そうにみえた
片方の口角を少し上げて笑ってる
あの頃のままの笑顔
「1年と1ヶ月半ぶり」
少し安堵したせいか イラッとした口調になってしまった
「怒ってるよなぁ」
「当たり前だよ 突然いなくなって」
アドレスさえ変えられて 連絡取れないまま
1年も過ぎてからの 突然のメールだった
「来てくれないと思ってたよ」
会いたい。と1行だけ
空白のあとに 病院の住所が書かれたメールだった
「来るでしょ あんなメール受け取ったら、、、フツウ、、、」
慌てて声を小さくした
同室の患者さんたちに気を遣ったのもあったけど
久しぶりなのに 以前のように喋れてる自分が意外だった
ウィーンッと微かな音がして ベットの背が起き上がり
別のボタンを押すと膝の辺りが三角に盛り上がった
手元スイッチを操作するケントの手際に見とれた
「でっ みんなは どうしてる?」
「ユッチは OL辞めて東京行ったよ
ディズニーダンサーになった
サヨリは バックダンサー受けてツアーに出てる」
「みんな頑張ってるんだな」
ケントの声が寂しく聞こえて 私は言葉を止めた
この1年での変化は他にもある
大学のダンスサークルで頑張っていたショウマは
就職してサラリーマンになったし
ジンは 介護の仕事を減らして
ショーケースやバトルに出まくっている
職場のスポーツクラブでも
急なプログラム変更の告知があってから
しばらくはいろんな噂話しが飛び交っていたけど
ケントの取り巻きだった女性メンバーたちは
早くも新たな男性イントラに熱を上げているらしい
今のケントの興味がそこらへんに無いことは明らかだ
「で どうなの?具合は」
「う~ん良くは ないかな」
軽く説明はしてくれたけど
病気の詳しいことは話したくない風に
話題は大阪での仲間たちのことになり
病室ということを忘れそうなくらい
遠慮しながらもククククッと小さく笑い合って盛り上がった
「ジンの引越しの時
みんなでパーティーしたの覚えてる?」
「あぁ 引越し祝いって
みんなでタコ焼きプレートと材料とか買って行って」
「そうそう テーブルとか食器も何にもなくて
みんな円座で 床でタコ焼きして」
「なんか メチャクチャ焼き だったよな
キムチとかチーズとか入れて」
「あの時 よくみんなの都合ついて集まれたなぁって」
「ほんとだな いろんな話して
みんなの違う一面もみれて 楽しかった」
タコ焼きパーティーは徹夜になり
帰りの朝は 駅に向かう途中の小さな公園で
始発電車まで時間を潰した
ジャングルジムに登ったショウマが
「 Hey! Party people! 」 と叫ぶと皆がそれに反応して
「イェイ ぱぁりぃぴぃぽぉ」
「ぱぁりぃぴぃぽぉ」と口々に叫びながら
ウェーブしたり ジャンプしたり ステップを合わせたり
徹夜明けの妙なテンションで 底抜けにはしゃいだ
顔を出したばかりの太陽は 目に染みるほど眩しくて
逆光で表情がよくわからなかったケントの言葉を思い出した
「いつも笑顔で人を癒してるけど いつ誰に癒されてるの?」
唐突な質問だった
その時 離れたところから
「そろそろ行くぅ?」と誰かの声がして
駅へと歩き出したのだった
あの時 言えなかったコト
いま言おうか
横たわるケントのベットの横で 少し迷った
つづく
ご訪問ありがとうございました
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