無知の知ノート

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ダンスが僕らの夢だった(4/5)「戸惑う」

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(4) 「戸惑う」

 

 (1)(2)(3)からのつづき

ダンスが僕らの夢だった(1/5)「スピード違反」

ダンスが僕らの夢だった(2/5)「ずっと続くと思っていた」

ダンスが僕らの夢だった(3/5)「1年間の変化」

 

 

ケントはもう覚えてないだろうな と思いながら 

窓の外に目をやると 遠くに連山が  

頂上辺りには雪が残っていて 白い稜線が見えた 

 

 

「あのさぁ  ケントにいっぱい癒されてたよ私   

 今も 背中を押してもらってる感じするもん」

 


親に愛されて育った子供は 大人になっても 

苦境に負けないって聞いたことがある


それに似て  同じように頑張っていた仲間の姿は 

熱中していた頃の自分を思い出し  

輝いた記憶として 背中を押し続ける 

 


「大阪を出る時  ちゃんと話さなくて悪かった、、、
 アイツはもう終わった って 

 みんなに思われるのが怖かったんだ


 来月 手術を受けることにした 

 難しい手術になりそうなんだけど」

 


淡々と病状を説明し始めるケントの言葉に集中しながら  


冷静を装わなければと 

目に溢れたものがこぼれ落ちないよう 歯を食いしばった 

 

・・・人前で泣くなんてキャラじゃない  まして個室でもない病室で

 


ケントは説明の最後に  

もしかしたら こっちの世界に戻ってこれないかもしれない。と付け加えた

 

 
私の頬にツーッと涙が伝った  

戸惑い  言葉を探しても見つからない  


顔を横に向けると一瞬だけ  隣のベットの患者と目が合って  

すぐに眠る振りをされた

 

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オレンジ掛かった雲が  急な夕暮れと共に 

別れの時刻が近づいているのを教えていた 

 

 

黙ってしまった私を見兼ねるように ケントが笑顔を見せた

「手術がうまくいったらさ

 またみんなで  タコ焼きパーティーしたいな」



「うん するっ♪  ぱぁりぃぴぃぽぉ」  笑顔ができた

 


「あのさ  お願いがあるんだけど」

そう言って

ベット横の白いサイドテーブルにケントが手を伸ばした時  


病室の入口から「あらっ」と声がして 女性の姿があった 

 

「母さん! きょうはいいって言ってたのに」

母。と紹介されて  会釈した 



「はじめまして  大阪で同じ職場だった者です」

「わざわざ大阪から~!?」

「あっいえ  近くに用で来ていて  たまたま、、、」

 

咄嗟に嘘をついてしまった 

 

 
「車だし  そろそろ出た方がいいな」

 

ケントの言葉に女性が目を丸くした

「車で来られてるの? それは大変!

  おウチには夜中になってしまうでしょう?!」



「明日も仕事だろ  階段のとこまで送るよ」

そう言って サイドテーブルの引き出しから何かを出しながら 

ケントはスリッパに足を入れた 

 

「お邪魔しました  失礼いたします」

「お気をつけてね  遠いところから有難うございました」



ほんとうに有難うございました。と背に聞こえた母親の声に 


もう一度振り返り  会釈して病室を出た   

 


右に20mほど廊下を歩いたところのスペースに  

誰もいない長椅子が4脚並んでいて  

 

右手壁面は 天井から床まで総硝子張りで  

腰の高さにある手摺りが 左方向 階段へと続いていた  

 

 

「これ  もらってくれない?」

ケントから手渡された封筒の中で  コロンと何かが動いた 

 

  

つづく

 

 

ご訪問ありがとうございました

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