不審者を追跡したものの
日曜日の昼下がり
庭先の歩道から
会話する声が聞こえてきて 気になった
貝塚伊吹の垣根の向こうに隠れて
その人たちの姿は 見えないのだけど
「どこまでいくの?」
「あっちの角を右に行ってから~」
声は 大人の男性と 低学年の男の子な感じ
「家は近くなの」
「うん アッチのアッチ」
・・・ん? ふたりは どういう関係?
この町でも下校時には
自治会パトロールの車が アナウンスして走る
聞き慣れて
もう覚えてしまったアナウンスが 頭に流れる
「安全パトロールを実施しています
全国で子供を狙った犯罪が多発しています
小学生の皆さんにお願いです
知らない人についていかないようにしましょう
もし連れて行かれそうになったら
防犯ブザーを鳴らすか
近くの大人に助けを求めましょう」
・・・ハッ もしや不審者!?
急いで玄関の外に出て ふたりの様子を窺った
男の子の手にはリード
犬の散歩中のようだ
「どっちへ行く?」
「アッチ」
「いいよ じゃ付いて行くから」
ふたりと1匹は やや上り坂の 西方向へ歩き出した
・・・どうしよう もし不審者だったら
男の子を守らなきゃ
使命感に燃えて 緊急 子供見守り隊員となって
後をつけることにした
急いで玄関に鍵をして
見失わないよう追いかけた
つけていることをバレないよう
少し間隔を取りながら
西方向から北方向へ
そして また西へ どんどん歩く
30代くらいで 服装は上下グリーン色のその男は
子供と犬が行く方向へと 付いて歩く
・・・怪しい 怪しすぎる どうしよう
ドキドキしながら 10分は歩いたと思う
突然 立ち止まった男に 気付かれた
「何か?」
「あっ イイエ ネコ 猫を見ませんでした?」
咄嗟の嘘が ヘタ過ぎて 自分にガッカリする
「いいえ 見ませんが」 しっかりと答える男の声が 怖い
「そうですか」 と言いながら
めげずに 同じ方向へと歩く
ポケットには 家の鍵だけ
iPhoneもお金も持たずに 出て来てしまった
たとえ持っていたとしても
この状況で使えるだろうか
まわりに人は いない
万が一の時
この子を守れるのは いま私だけなんだ
パラパラと 雨が降り出して
走り出す男の子と犬の後を 男も走る 私も走る
男の子が 足を止めた
「ありがとう」
男の子が礼を言って 男にリードを渡し
道路向かいの家へと入っていった
???
「おかあさ~ん 犬 持たせてもらったぁ」
嬉しそうに叫ぶ男の子の声が 聞こえた
・・・ん? 犬の散歩中だった男性!?
犬を持たせてと
見知らぬ男の子から頼まれて
付いて歩いていた!?
エーッ いい人やん♡
男性と目が合って
恥ずかしくて 走って逃げた
不審者は
私だった
感謝☆