無知の知ノート

知りたいコト 調べたコト 体験したコト ... and so on

善意と迷惑 紙一重(忘れられないシチュエーション)

 f:id:hentekomura:20190507190431j:plain


連休に入ったばかりの 天気のいい正午前だった  

普段は静かな住宅街に 

ドーンッ!という爆発にも似た衝撃音が鳴り響き  

 

慌てて窓から顔を出すと 近所の家々からも 何事かと驚いた人たちが

音がした方向に歩いているのが見えた    

 

車の正面衝突だ 

数年前のことなのだけど ハッキリと覚えているあの時のこと

 

坂を上る白い車に 下って来た黒い車がセンターラインを越えてぶつかって  

砕けたフロントガラスや 外れたホイールやバンパーが散乱していた   

 

私が駆け付けた時には すでに10人ほどの近所の人たちが居て 

当事者らしき1組の若いカップルと 黒い車から中年男性が 

それぞれ車の側に降り立っていた 

 

黒い車の男性は 

「申し訳ないことをした 自分が悪いんだ」 と

正気を失ったかのように 何度も繰り返していて 

 

一方 カップルは 

運転していたのは女性の方だったらしく 

ショックで泣き止むことが出来ずに 

夫らしき男性に背中を擦られながら立っていた 

 

 

「誰か救急車 呼んでください!」 

 

叫びながら 私は黒い車に走り かかったままのエンジンを切った 

 

漏れたオイルに引火したりしては危ないと思ったのだ 

 

そして 怪我の程度がつかめない3人に 

とりあえず 歩道に腰かけてもらい 

 

「大丈夫ですか?」 と声を掛けた 

 

 

いつの間にか増えた人だかりに囲まれて  

当事者の3人といっしょに 私は円陣の中心に居た 

 

・・・なんで私が 仕切ってんだ?! 

 

すでに後に退けない状態になってしまっていたし 

当時 日本赤十字社の救急法救命員の認定証を取得したばかりのタイミングで 

妙な使命感に燃えてしまったのだ 

 

学んだ通りの手順で 

まずは怪我人を落ち着かせること 

 

「大丈夫ですか? どこか痛いところはないですか?」 

 

聞けば 徹夜の仕事明けで 

居眠り運転してしまったのだと話す黒い車の男性は  

早く家に帰って眠りたかったのだろう  

 

憔悴しながらも 相手を気遣った 

 

「私は大丈夫です それよりソチラが 大丈夫ですか?」 

 

f:id:hentekomura:20190507190514j:plain
泣いている女性には  

近所の奥さんが 声を掛けていた 

 

「大丈夫? お腹の赤ちゃん 大丈夫?」 

 

その一言で 周りを囲む人々の視線が 女性に集まった  

 

妊婦らしきその女性は 何か言おうとするのだけど 

しゃくり上げるほど泣いていて 

その言葉は 聞き取れない 

 

肩を抱いて寄り添う男性が 

「大丈夫です」 と ボソッと返事した 

 

近所の奥さんが 「母子手帳は?」と声を掛けても 

 

首を横に振って泣くだけで 

ほんとうに大丈夫そうだった 

 

 

f:id:hentekomura:20190507190544j:plain

それより黒い車の男性の顔面は 

ハンドルにぶつけて割れた額から

したたり落ちる血で 真っ赤になっていた 

 

野次馬の中から 中学生らしい男の子の声が叫んだ 

 

「頭から赤い肉が 出てる!」 

 

その声に気付いて 自分の額を探り始めた男性の手を 

慌てて掴み止めた 

 

「ダメです 触らない方がいい ばい菌入ったら大変 

 傷口 大したことないですよ」 

 

そう言って 目に入らないよう 

瞼の血をそ~と拭ってあげるのが 精一杯だった 

 

 

怪我人を安心させるということも 確か救急法で学んでいた 

 

けどそれ以上は 何も出来ない自分が もどかしかった 

 

・・・お願い! 救急車早く来て! 

 

男性は顔面を赤く染めながらも 繰り返し女性を気遣った 

 

「ほんとうに大丈夫ですか? お腹の赤ちゃんも」 

 

周りからも 女性を気遣う声が 次々と掛けられた 

 

 

「大丈夫? お腹の赤ちゃん 大丈夫?」

 

f:id:hentekomura:20190507190600j:plain
 

その声が渦巻く中 

 

ようやく泣き止んだ女性が 口を開いた 

 

 

 

「私 妊娠してません!」  

 

f:id:hentekomura:20190507190632j:plain
 

訴えるようなその一言に 

バケツで水をぶっかけられた感じがした 

 

たぶん そこに居た全員が バケツの水を浴びた 

 

 

シーンと 誰の声も聞こえなくなったところに  

救急車のサイレンが近づいて来るのが聞こえた 

 

その音にホッとして 

解放されたように 私は円陣を抜け出して 

家へ戻った    

f:id:hentekomura:20190507190703j:plain

 

全員の善意が打ちのめされることって 

 

あるのですね

 

今から思えば笑ってしまう話なのだけど 

 

その時は 

その場に居た 誰ひとり 

決して笑ってはいけない状況になってしまった   

 

f:id:hentekomura:20190507190733j:plain
反省の標語  

「気をつけよう! 思い込みで声掛けするな!  善意ぶるな! 」  

 

ご訪問ありがとうございました 

感謝☆