無知の知ノート

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寄り道と 文房具店のおばあちゃん 

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あなたにも きっと あるでしょ?   

秘密基地みたいな 大切な場所とか 

忘れたくない人  

 

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中学校近くにあった 小さな文房具店   

放課後 毎日のように立ち寄るその店は 

看板には「文房具店」と書かれているのだけど 

 

ノートや鉛筆といっしょに 

パンや菓子や紙風船や 

ワケノワカラナイ興味を引く小物たちが 

溢れるように並べられていた 

  

向こうが透けて見えるほど薄っぺらな紙石鹸とか  

親指と人差し指でこすると煙が出てくるベトベトの物体とかww   

      

 

 

下校時には いつも生徒たちがパンや菓子をかじりながら 

細い通路をウロウロと埋めていて   

 

店主のおばあちゃんは 店の奥の丸椅子に座り  

いつもニコニコ微笑んでいた 

 

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おばあちゃんはご主人を早くに亡くされて 

女手ひとつで 子供を育て上げ 

娘さんは結婚して隣町へ 

 

ご主人が始めたという文房具店を 

ひとりで 大切に守っていた 

 

 

「おばあちゃん ただいまっ」 

 

「ああ おかえりなさい」 

 

自分の家でもないけど いつもの挨拶で 

下校の寄り道 第一ポイントになっていた 

 

おばあちゃんは 白くなった髪をひとつに束ねて 

お団子のように丸くまとめていて 

その横顔や 笑い方や喋り方が 

子供心にも とても上品で美しい人だと思った 

 

 

校則では寄り道は禁止だったし 

まして 行儀悪い立ち食べなんて見つかったら大変 

 

時折 通りかかる先生の姿が見えると 

生徒たちは一斉に逃げ隠れに大騒ぎするのだった 

 

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ある日 私は逃げ遅れた  

慌てて鞄の中身をひっくり返してしまって  

 

数十メートル先から近づいて来るのは 

よりによって 鬼〇先生  

 

大きな肩と バットみたいな太すぎる両腕は 

遠くからでも 鬼〇先生だと分かった 

 

 

手には かじりかけのねじりパン 

捕まったらゲンコは間違いない 

 

焦って 店の奥へと走り込んでしまった 

 

そこは おばあちゃんの家の居間へと繋がる通路に  

カーテンが 店との境界線の仕切りとして掛けられていて 

そこから先は踏み込んではいけないと解っていた 

 

逃げ道は 無い! 

鬼〇先生は 近づいて来ている 

 

ねじりパンを無理やり口に押し込んだものの 

噛むことも飲み込むこともできずに 

頬をパンパンに膨らませたまま その場にしゃがみ込んでしまった 

 

「さっ 早く」 

 

カーテンが開き 手を引っ張られてから 即カーテンが閉められた 

おばあちゃんの救いの手は 素早かった 

 

 

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卒業してから 何年か経って訪ねた時 

「文房具店」と書かれた看板は 

塗り替えられてキレイになっていた 

 

おばあちゃんの姿は なかった 

 

店内には 

懐かしい駄菓子や

オマケに付いてくるような小さなオモチャたちが 

文房具といっしょに 相変わらず仲良く並んでいた  

 

娘さんだろうか 

店の奥には  おばあちゃんに似た優しい笑顔の女性が座っていた 

 

 

 

 

あの「文房具店」を訪ねることは

もうないだろう   

けど きっと今も 

 

部活を終えた空腹の子たちが 

狭い通路でパンをほおばっている 

 

 

「おかえりなさい」って 

おばあちゃんの笑顔が 

 

いまも いつも そこにある 

 

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