うちわ(幼い日 母の記憶)
あまりの暑さに目が覚めた
首筋が 汗でじっとりとしている
まだ眠っていたい
上方へ右手を伸ばした
うちわがひとつ 置いてある
半分眠りながら うちわを扇ぐ
心地よい
パタンッとうちわが落ちた音に気付いたけれど
再び眠ってしまった
目覚めると もう昼近くになっていて
ベランダから太陽がジリジリと 部屋の温度を上げていた
側らに落ちたうちわを拾い上げて
熱い体に 扇ぎ続けた
そういえば、、、と
幼い頃の記憶が 突然蘇る
母はよく うちわを扇ぎながら 私を寝かしつけてくれた
何歳くらいの記憶だろう
母の胸あたりに私の頭 足先が母の膝下あたり
母は私の方へ体を横に向けて
うちわで 風を送り続けてくれた
うちわを持つ母の手が だるくなって風が止まると
要求して 我がままに ぐずった
遠い 幼い日の記憶
突然 母が逝ってしまったあの日から
もう10年以上も経ってしまった
ブラウスを買いに行きたいと言っていた母と
2日後には一緒に買物に行く約束をしていた
死はあまりに あっけない
脳の血管が詰まったとか 例えば交通事故だとか
そんなことは単なる言い訳で
死ぬ時というのは すでに全ての人に
運命として決められていることではないかと感じる
そんなふうに死を受け入れようと思ってはみても
喪失感を拭えるわけもないけど
死に化粧を施した時の 母の冷たすぎる肌の感触も
火葬のあと 手に取った 母の骨も
すべては確かな事として 認識した
でも私の中で 母の生活は まだ続いている
緊急の用以外は携帯ではなく 自宅の電話にかけてくる母だった
今も帰宅して留守録ランプが点滅していると
母からではないかと 思ってしまう
私の車の助手席に座り いっしょにドライブするのが
なにより幸せと言っていた母の声が
いまも 運転中に 聞こえる
それでも記憶は 確実に薄れていくのだろう
悲しいけれど 人は忘れていく生き物
だから こうして書き留めておきたい
いつも仕事優先の娘を 母が気にいっていないことは解っていた
いっしょに手芸したり ドライブしたり
母の望みは知っていたけど
私は 仕事に夢中だった
愛犬の死と その1ヶ月後だった父の死
そして 母の死
重なる悲しみのあまり 半年間生理が止まってしまったあの頃でさえ
仕事に追われて過ごしていた
父や母にとって 私はいい娘だっただろうか
うちわを扇ぎながら 横向きになる
母の胎内にいた時のように 背を丸くして
側らに母を感じる
涙が片方の目から もう片方へ流れ込む
仰向きになる
天井を見つめながら
溢れた涙は目尻から両サイドへと 流れ続ける
ひとしきり泣いたら 起きあがって
さぁ きょうも
笑顔の一日にしよう
大好きな曲 ♪
ご訪問ありがとうございました
感謝☆